先端回折光学素子(ADOE)の研究開発
位相マスクを用いたフーリエ合成干渉露光法
ブレーズグレーティングは、高効率が得られる回折光学素子で、多用されていますが、図A-1に示すような鋸歯状の断面構造を有しています。このような断面の周期構造を作製する手法としては、精密機械切削、電子ビーム直接描画、傾斜ドライエッチング、グレイトーンマスク露光、バイナリー多重露光、傾斜干渉露光、多波干渉露光などが知られていますが、いずれも問題点を抱えています。そこで、本研究分野では、材料を選ばず大面積で生産性に優れた新たな手法を考案、実証しています。
基本は波面のフーリエ合成であり、多数の平面波を干渉させて周期的鋸歯状光強度分布を形成し、基板上レジストを露光しようとするものです。そのためには、位相と振幅を制御した多数の平面波を生成する必要があり、このような複数光波を生成する手法として、図A-2に示すような位相マスクの利用を考案しました。位相マスクを用いた干渉露光は、元来、露光レイアウトが極めて単純、形成される干渉縞周期がマスクパターン周期もしくはその半分で固定、したがって環境変動に鈍感で安定といった優れた特徴を有します。そこで、位相マスクに微細構造を設けて、互いの複素振幅関係を制御した多数の光波を高次回折により発生させ、それらを適当な距離伝搬させれば、ほぼ任意の光強度分布が得られます。
位相マスクは透明基板の表面を凹凸加工することで得られます。図A-3に位相マスク凹凸の設計例と試作例を、図A-4に位相マスクを透過した光波の光強度分布が伝搬と共に変化する様子とレジスト上における光強度分布をシミュレーションした結果を示します。作製した位相マスクを用いて、実際にこのような鋸歯状光強度分布が得られることを確認しています。

図A-1 ブレーズグレーティングによる回折の様子。鋸歯状の屈折率分布もしくは凹凸形状を有し、薄いグレーティングでは、特定波長に対して100%近い回折効率が期待できる。

図A-2 位相マスクを用いたフーリエ合成干渉露光の様子。石英基板上の周期的凹凸により位相振幅が制御された多数の回折波が発生し、それらを重ね合わせて所望の光強度分布を得る。

(a)

(b)
図A-3 周期3mmの鋸歯状光強度分布を与えるための位相マスク凹凸の設計例(a)と試作した凹凸のAFM写真とプロファイルの例(b)。

(a)

(b)
図A-4 位相マスクの透過波のフーリエ合成シミュレーション。光波伝搬に伴う光強度分布の変化の様子(a)とレジスト膜中に形成される光強度分布(b)。位相マスク透過直後は一様強度であるが、伝搬と共に変形し、所定の伝搬距離で所望の光強度分布を形成する。
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